医療へ人工知能(AI)を利用する試みが急速に広がっている。
東京大学医科学研究所による遺伝子データからの、癌の発症に関連する遺伝子変異の選出。Enlitic社による、医療画像からの病変の発見。そして恣意的になりがちなうつ病のAIによる診断基準の確立まで、AIの医療現場への適用が始まっている。
国も生活習慣病予防にAIを活用する方針を固めた。健康保険組合などが蓄積するデータを収集し、どんな人間が病気にかかりやすいかAIによって判定。患者予備軍に自動的にメールなどで改善策を助言する。
人間の寿命を予測する
より先を見据えた研究も進展している。アデレード大学は、AIに胸部の医療画像を分析させることにより、5年以内に死亡する患者を予測できたと発表。AI技術の進展や、より大規模な画像データの学習により、患者の寿命さえも高精度に予測できる可能性がある。一般に、患者の余命を予測することは難しく、癌の末期で余命3か月といった極端な場合を除き、その精度は極めて低いと言われている。
研究グループは、深層学習によりAIに医療画像を理解、分析させる方法を調査し、患者48人の胸部写真を分析させた。結果、69%の正確さでどの患者が5年以内に死亡するかを予測することに成功した。
その正確さは、臨床医が分析した場合の精度に匹敵。また、AIが画像の何を見て余命を予測したのか分からなかったケースもあり、医師には発見できない病変や異常を発見できる可能性もあるという。
研究グループは、この研究から、医師が個人に合わせた治療をできるようになり、また重篤な病気の早期発見につながるとしている。また、次の段階の研究として、数万の患者の画像をAIに分析させる予定だ。
現状、認知症に対する類似技術はない
このような技術の進展によっても、減少しないと思われる幾つかの疾患がある。近年の死亡原因の上位にある癌や心・血管病は、予防や早期発見によるインパクトが強く、AIの活用で著しい成果を出すことが予想される。
しかし、認知症の予防につながる類似技術は現状存在しないと思われ、また高齢者が怪我をきっかけに障害者となってしまうことも防ぐことはできない。
人間の寿命が伸びた場合、このような人々の増加、そしてケアが問題になってくる。これに対応するには、介護現場へのロボットの導入が必須であり、それは否応なく進展すると考えられる。
そして遂には、大量の高齢者を世話するロボットだけの巨大な高齢者介護施設が出現し、介護従事者は施設の管制室にのみ常駐する。そんな未来が思い浮かぶ。
関連情報
アデレード大学(University of Adelaide):
南オーストラリア州アデレードに本部を置く公立大学で、オーストラリア版アイビー・リーグと呼ばれるGroup of Eightの一員。これまでに5人のノーベル賞受賞者を輩出している。【ウィキペディア:アデレード大学】参考リンク:
- ソニー生命保険株式会社:AIで医療の未来はどう変わる?
- きょうの健康:メディカルジャーナル「人工知能が医療を変える」
- 日経電子版:AIで生活習慣病予防 経産省、健保データ活用
- ScienceDaily: Artificial intelligence predicts patient lifespans
- Scientific Reports: Precision Radiology: Predicting longevity using feature engineering and deep learning methods in a radiomics framework
スポンサーリンク
スポンサーリンク