エピジェネティックな機構をもつ進化するロボット

2体のロボットの画像

人間は、生まれた後も成長し、自律的に学習を繰り返して大人になる。やがて、パートナーを選択してつがいとなり、交配して繁殖する。その営みをより大きなタイムスケールで見れば、突然変異と自然淘汰による遺伝子の変動がある。

生体を模倣するロボット

人間や生物に変化をもたらすこれらの行動をロボットに模倣させる様々な試みがある。

カリフォルニア大学の人間型ロボット「ダーウィン」は、試行錯誤を繰り返して、自律的に学習し、不慣れな環境を進むことができる。

研究段階だが、3Dプリンタを自ら駆使して部品を作成し、自身の身体を成長させるロボットも実現されている。

交配して繁殖するロボットでさえ作成されている。そのロボットは、一定のタスクをこなした個体が互いに評価してつがいを作る。そして、互いのソフトウェアやハードウェアを混成した新しいロボットを作るのだ。このロボットの自律的な生産過程は、タスクをより適切に行う個体のみを残す。長い目で見れば、それは自然淘汰を模倣し、遺伝現象を再現する。

エピジェネティクス

しかし人間には、エピジェネティクスと呼ばれる、成長や繁殖、遺伝にまで影響する複雑な機構が存在する。

エピジェネティクスとは、生物の形態や機能が遺伝子からどのように発現しているかを問う学問分野、またはその機構のことで、生物の生きてきた過程によって遺伝子の発現の仕方が変わることを教える。つまり生物は、環境によって親から受け継いだ遺伝情報をオンにしたりオフにしたりと調節しているのだ。

エピジェネティックな効果を示す繁殖するロボット

このエピジェネティックな効果を初めてロボットに組み込んだ研究が、米ヴァッサー大学の研究者率いる研究グループによって行われた。論文は2017年1月24日、「Frontiers in Robotics and AI」に公開された。

研究グループは、研究対象にある特定の電子回路を持ったロボットを用い、「遺伝子」を電子回路を結ぶ配線の一群とした。個々のロボットは「遺伝子」として数種の配線群を備え、個々の配線群はロボットの成長と共に決まった形で配線を伸ばし、接続を増やしていく。ロボットの動作や機能は、電子回路内を結ぶ配線で決まるので、これをロボットの「表現型」とした。

そして、電子回路内を結ぶ接続の相互作用が「エピジェネティックな因子」として導入された。相互作用を持つロボットでは、成長と共に伸長する配線先に既に他の配線が接続されていた場合、その配線の伸長は止められる。結果、「エピジェネティックな因子」を持ったロボットは、持たないロボットとは異なる動作または機能を示す。

比較のため、「エピジェネティックな因子」を持った集団と持たない集団が用意された。ロボット達は、いかに早く光に集まるか(走光性)、そしていかに障害を回避するかを競い、ランク付けされた。そのランクはロボットのペアを作るのに用いられ、ペアになったロボットの「遺伝子」を基に子の「遺伝子」が作成された。また僅かな確率で、「突然変異」も導入された。

実験は、10世代にわたって行われた。結果、「エピジェネティックな因子」を持ったロボットの集団は、持たない集団と比較してタスク実行能力が明らかに劣っていた。しかし、「エピジェネティックな因子」を持ったロボットがより劣っていることは問題ではない、この実験では、エピジェネティックな因子がロボットの進化的ダイナミクスを変化させるか否かが問題だったからだ。


この結果は、遺伝子間相互作用により表現型が変化し、表現型が変わったことによりパートナー選択が変動した、と結論付けられるかもしれない。

すると、この実験における「エピジェネティックな因子」は、あくまで成体におけるエピジェネティクスの一例を模したものに過ぎないと言える。そして、個体の環境によって表現型が変わり、それが遺伝に影響するというエピジェネティクスの核心とも言える事例はカヴァーしていない。


生体のエピジェネティクスは、現在見つかっているものだけでも複雑かつ多様性に富んでいる。そのため、これを逐一ロボットで再現していくのも骨が折れる。しかし、ある程度の複雑性を持つ自律的に進化するロボットであれば、進化の過程で自律的にエピジェネティックな機構を獲得していく可能性さえ考えられる。

それは、ロボットが自律的に獲得したエピジェネティックな機構から、生体のエピジェネティクスの知見が逆に得られる可能性を示唆する。

ロボットゆえに、どんな機能を付けても大きな問題はないことを考えれば、人間が近い未来に経験する、自己改造または互いに改造し合う種の行方をシミュレートするのもいいかもしれない。

関連情報

参考リンク:

スポンサーリンク
スポンサーリンク