ジョンズ・ホプキンス・メディスンは2019年9月16日、免疫抑制薬の服用を必要としない脳細胞の移植手法を開発したと発表した。この手法により、生来の遺伝子疾患に対する治療法開発が進展する可能性があるという。
遺伝子疾患治療の障害となる免疫システム
先天性大脳白質形成不全症を知っているだろうか。乳幼児のおよそ10万人に1人が発症し、けいれんや筋緊張の異常、痙性麻痺などを患う。日本で難病に指定されているように、治療法は現在のところ確立されていない。先天性大脳白質形成不全症は、ペリツェウス・メルツバッハー病などの11種類の病気によって発症し、これらの病気は、共通して大脳の髄鞘(ミエリン)を形成する遺伝子の遺伝子変異によって引き起こされる。
このような遺伝子疾患の治療法として、ジョンズ・ホプキンス・メディスンの研究者は、健康な細胞の移植、もしくは病気の細胞や損傷・欠損した細胞を引き継がないように設計した細胞の移植を考えた。
しかし、欠陥のある細胞を置き換えるには、哺乳類の免疫システムが障害となる。免疫システムは、自己と非自己の組織を迅速に識別し、非自己である外来の侵入者を破壊しようと攻撃するからだ。
この免疫システムを弱める免疫抑制薬も存在するが、抑制対象を選べないため、患者は感染症に脆弱となり、副作用をも被る。また、免疫抑制薬は一生涯、服用し続ける必要があることも問題だった。
免疫システムを訓練して移植細胞を保護
この免疫反応を副作用なしで止めるため、ジョンズ・ホプキンス・メディスンの研究チームは、外来の侵入者と戦う役割を持つT細胞を操作する方法を探索した。具体的には、T細胞が自己を攻撃しないように調整する「共刺激シグナル」に注目。共刺激シグナルの通常の機能に沿った形で、移植した細胞を「自己」として受け入れるよう、免疫システムを訓練することを考えたのだ。
そこで、研究チームは、まず3種類のマウスを用意した。用意したのは、正常なマウス、ミエリンを生成するグリア細胞を形成しないように遺伝子操作したマウス、免疫応答を起こすことができないマウスだ。
これらのマウスに、光るように遺伝子操作した、ミエリンを生成するグリア細胞を移植。その後、6日間だけ、自己免疫応答を抑制するアバタセプト(CTLA4-Ig)と抗CD154を投与して免疫応答を阻害した。
その結果、T細胞を訓練しなかった、つまり免疫応答を阻害しなかったマウスでは、移植した細胞はすぐに死に始め、21日目で細胞は完全に検出されなくなった。一方、T細胞を訓練したマウスでは、203日間にわたって移植したグリア細胞を維持していた。
このことは、T細胞の移植細胞に対する攻撃の選択的な阻害に成功したことを意味するという。
次に研究チームは、MRIを使用して、移植したグリア細胞が正常にミエリンを生成しているかどうかを調査。グリア細胞が活発なマウスの脳と非活発なマウスの脳を比較したところ、T細胞を訓練したマウスのグリア細胞が脳の適切な部位に存在していることを確認した。
この結果は、移植された細胞は成長することができ、通常の機能を発揮できることを示しているという。
研究チームは、これらの成果を脳へ細胞を伝送する研究と組み合わせることで、将来的には脳全体の修復が可能になると見込んでいる。
関連情報
ジョンズ・ホプキンス・メディスン(Johns Hopkins Medicine)
ジョンズ・ホプキンス・メディスン(Johns Hopkins Medicine)は、多数の病院や研究所、大学などを統合した機関。メリーランド州のボルチモアに本部があり、研究や教育、医療、関連した事業の調整等を行っている。ジョンズ・ホプキンズ大学は、世界屈指の医学部を有する私立大学で、これまで36名以上のノーベル賞受賞者を輩出。また、ジョンズ・ホプキンズ病院は、ジョンズ・ホプキンズ大学医学部付属の教育病院・研究施設で、世界で最も優れた病院の一つとして知られる。
そのほか、ジョンズ・ホプキンス・メディスンは、非営利のハワードカウンティ総合病院(Howard County General Hospital)や、地元の医療機関と提携したサバーバン病院(Suburban Hospital)など、多数の医療機関を統制している。
参考リンク
- 難病情報センター:先天性大脳白質形成不全症(指定難病139)
- 難病情報センター:神経系疾患分野 Pelizaeus-Merzbacher病(ペリツェウス・メルツバッハー病)
- Johns Hopkins Medicines: In Mice: Transplanted Brain Stem Cells Survive Without Anti-Rejection Drugs
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